公私ともにロクなことが無かった一年が、もうすぐ終わります。そのとどめを刺すように、私がこれまで最も愛したレストラン、オテル・ドゥ・ミクニが37年の歴史に幕を引き、大晦日で閉店することになりました。自宅が近所であったため、東京在住時は年に4回のコース替わりのタイミングで通ったお店、東京での披露宴を行った会場もこのレストランです。これまで20年近く、私や家族、お客様に特別で大切な時間を提供してくださいました。
初めてお伺いした際にはまだ重厚で古いつくりの洋館のみで、緊張しながら今の家内と二人で門をくぐりました。完璧なフルコースの後の各種チーズやケーキのワゴンサービスで「何種類でも、何回でもどうぞ」と言われた時の衝撃、木箱に入ったトリュフを目の前でスライスして「もう少し召し上がりますか?」と尋ねられ、こちらから「もう十分です!」と言うまで追加してくれたパフォーマンス等、若き日の感動は今も鮮明に想い出します。
三國清三シェフは、設立5年目に師匠である天才アラン・シャペルをお店に迎えた際、自らのお料理を「JAPONISÉE(ジャポニゼ)」と評価されたことでライフワークを定め、以来、和の食材とフレンチの融合を突き詰めたとのこと。支えるスタッフの方々も同様、まだ小僧だった私達の名前と好みを記憶・記録して、通勤時に道端でお会いしたら気さくにご挨拶、フロアでは俳優みたいな振る舞いでのおもてなし、その切り替えはとても日本的でした。
80席超の人気レストランを畳む三國シェフは、「今度は8席限定のお店で、全て自分自身が調理する」とおっしゃりました。70歳を迎える新たなスタートですが、大変僭越ながらお気持ちもわかる気もします。経営とプロの仕事は別物ですから。個人的には、これからも三國シェフと全てのスタッフの方々の新たな舞台での挑戦を体験することで、自身にとっての新たな憩いの時間と勇気をいただいて、来年以降も頑張りたいと願っています。(T)