美味覚障害

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新型コロナウイルス感染症の特徴的な症状の一つに「味覚障害」があります。1年前、新型コロナウイルスの感染が拡大し、様々な報道でその怖さが伝えられはじめました。その中で、「ある日突然、味がしないと思ったら新型コロナウイルに感染していました」という感染者の体験談が良く取り上げられていたのは記憶に新しいところです。欧州での報告では、軽症から中等症の新型コロナウイル感染患者415人に対して行ったアンケート調査の結果では、88.0%の人に味覚障害がみられたと報告されており、確かにインフルエンザを含めた一般的な風邪よりも嗅味覚障害が多くみられる傾向が明らかになってきました。

私はと言えば、新型コロナウイルス感染拡大に伴う緊急事態宣言や自粛の動きが広まった昨年から何を食べても美味しく感じない、「美味覚障害」になってしまいました。原因は新型コロナウイルスへの感染ではなく、社会全体の厳戒態勢の雰囲気や『黙食』の励行にあるのは明らかです。在宅勤務の時には自宅で食べるかコンビニで購入、ごく稀な出勤時には外食したとしても一人で一言もしゃべらず食べて戻る、単なる栄養補給でしかありません。

人間の食事における重要性について、山極壽一元京都大学総長が著書の中で言及しています、『食事は、人間がチンパンジーと共通の祖先と別れてから、最初に築き上げた最も重要なコミュニケーションだと思います。サルにとって食事は一般に非常に個的な行為です。それを人間は自分の食欲を抑制し、相手と同調させながら、やり取りに昇華させました。』(出典:山極 壽一『京大総長、ゴリラから生き方を学ぶ』)。現在、約300種類いる霊長類(サル目とも、キツネザル類、オナガザル類、類人猿、ヒトを含む)の中で食べ物を分け与える種はごくわずかで、もちろん人間もその1種です。自然界において食べ物は最も大切なものでありそれ自体が紛争の種となる、だから、わざわざ紛争の種を相手に差し出して「一緒に食べましょうよ」と食事の場を設けること自体が和解を前提とした大変に高度で尊い行為である、と山極さんは結論しています。

更に山極さんは食事について『しかも、みんなで食べるとより美味しく感じられたりもする。共食の不思議な魅力です。栄養補給の面からみれば非効率極まりません。一人で食べれば数分で終わるものを、時間をかけてみんなで食べるのですから。』とつけ加えています。食事というのは人間にとって単なる栄養補給に留まらず、人間という種のアイデンティティに関わる根源的な行為です。みんなで一緒に楽しく食事をする、そんな人間らしい日常が戻り、私の美味覚障害が治ることを願って止みません。(KS)

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