グロテスクなキャンセルカルチャー

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 いまや日本の世論形成を担うのは週刊誌報道です。政治、芸能、文化、その他あらゆる分野で無検証に晒される記事をトリガーに新聞記事が書かれ、テレビ報道やワイドショーが情報を垂れ流すことで、SNSの知性ない議論が異常なスピードで広まります。通常の社会生活を行っている限り、興味もないし、知りたくもない汚い情報から逃れることは出来ません。特に有名人は、ことの真偽は問わず週刊誌に書かれたらもはや勝ち目がありません。

週刊誌の強みは取材力と発信力に加え、「証言者」による主観コメントを自在に操れる自由度にあります。誰もが金目当ての行為などを疑っても「被害者が言ったなら本当」という前提が先立つグロテスクな情報が、例えば国会審議にまで影響を与える不思議な権威を持つに至りました。特に芸能ネタでは、被害者を自称する存在がコメントした瞬間、他のメディアは「もし本当なら」の前提で稚拙な正義の議論を真面目に語るのです。

いわゆるキャンセルカルチャーが世界的潮流なのは間違いありません。アメリカではBLM(Black Lives Matter)運動を契機に建国の父ジョージワシントンが奴隷を雇っていたことさえ批判対象になり、欧州では環境活動家がモナリザ等名画にペンキをかけて抗議することも、単なる犯罪ではなく賛否の議論になりました。ただ、日本の場合、妙な倫理観を掲げて芸能人やスポーツ選手を貶めて失脚させる異常な権力構造が生まれたのです。

メディアは営利企業なので、現状が経済合理性に則った最適システムなのでしょう。ガザやウクライナ、能登の被災地等の取材には多大なコストが必要で、身近に窓口がある有名人なら東京で取材して記者会見しろと叫ぶだけですむから。本質的に怖いのは情報の消費側である国民の知性レベルの劣化です。我が国の「知る権利」は、「有名人のプライバシーを裁く権利」に変容しました。若い方々は可哀そうだし、未来はやっぱり暗いかもです。(T)

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