盲導犬に関わる第二の人生

 白石監事が情熱を注がれている盲導犬繁殖犬育成ボランティア活動についてのエッセイが、東京YMCA 日本キリスト協会 第20回愛恵エッセイ「豊かな福祉社会を創るために」の奨励賞にご入選されました。おめでとうございます。

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 三年前、六十歳で早期定年退職後、(公財)日本盲導犬協会の繁殖犬飼育ボランティアを始めた。夫婦共に大の犬好きで、犬を飼うことで多少なりとも目の不自由な人の役に立てたら良い。そんな思いでこのボランティアを始めた。

担当しているのは茶色の雄ラブラドールレトリーバーのチッパー。体重は三十五キロで仔馬のように大きく、協会の他の犬と比べても飛びぬけて元気で力が強い。

子犬を一年間育てるパピーウォーカーとは違い、繁殖犬ボランティアは、担当する犬を生涯面倒見る。協会からの要請があればチッパーを車で連れて行き交配させるのが繁殖犬の仕事。昨年は十七匹の盲導犬候補の子犬が誕生した。

今ではすっかり慣れたが、飼い始めは戸惑うことばかりだった。早朝五時前には散歩に行こうと鼻を鳴らす。ネコや犬に遭遇すると凄まじい力でリードを引くので、倒されないように散歩中は常に緊張していた。

朝晩一時間の散歩は三百六十五日休みがない。雨、雪、台風でさえチッパーには関係がない。決められた時間に決められた量のエサと水を与え、一日に二度裏庭に連れ出しておしっこをさせる。その上、他の犬との接触事故を防ぐためにペットホテルに預けることはできず、夫婦での旅行は一切行かなくなった。

そんな一見不自由なチッパーとの生活であるが得るものの方が多い。

盲導犬協会から定期的に送られてくる機関紙もその一つ。盲導犬を使っているユーザーの声が掲載されている。白杖に頼る歩行は、路上に放置された自転車や障害物にぶつからないよう常に気が抜けないという。盲導犬を使うようになり、風を切って歩く喜びを再び手に入れた。そんな盲導犬と笑顔で歩く方々の写真を見ると、こちらまで嬉しくなる。

チッパーとの暮らしで健康な体も手に入れた。朝晩の散歩で体重が十キロ減り、快食、快眠、快便の生活が続いている。

夜、リビングテレビを見てくつろいでいると、チッパーが妻と私の間に割り込むように

大きな体を寄せてきてゴロリと寝そべる。そのうち大きなイビキをかいて寝てしまう。夢を見ているのだろうか、手足をピクピクさせ、ムニャムニャと寝言まで言う。そんな姿を見ていると心の底から癒されてしまう。第二の人生は夫婦関係が悪くなるといわれているが、チッパーのお陰で、その問題もなくなった。

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