美術的センス皆無の私ですが、都市計画を学ぶ際に建築の勉強はしました。無論専門ではないため、構造力学や材料力学等のような工学的分野ではなく、芸術的・哲学的な変遷の歴史やその意義についてです。「ヒューマンスケール」というコンセプトもその時に学びました。どんな建築物も人間の知覚範囲を超えて巨大であればただの壁であり、人が歩いたりその他の活動をしたりする際に、心地よく感じる空間設計も建築の要素に含まれます。
鉄やコンクリートに代表される近代建築は、中世のゴシックやバロック等華美な様式を否定して、“Less is More”という言葉でその建築物の効率性と機能性を追求しました。結果、四角四面な建築物ばかりが増える中、ロバート・ヴェンチューリが唱えた“Less is bore”という言葉を号砲に一世を風靡したのがポストモダン建築です。近代建築の味気無さを否定して、周囲の景観との調和も無視した建築物が、日本でもバブル期に増殖しました。
ただ、ポストモダンの代表作と言われる、例えば世界的に有名な隈研吾さんのM2ビルのような作品には普遍的な魅力を感じません。私自身が魅かれたのは、イオ・ミン・ペイという中国系米国人の建築家です。コーネル大学内の荘厳な学舎が並ぶ丘の隅に建つハーバート・ジョンソン美術館には特別な魅力があり、ユニークな建築が持つ力を象徴していました。ルーブル美術館のピラミッドは、館内作品と同様に芸術品としての評価を受けています。
そんなペイさんが日本で設計した代表作の一つである“MIHO Museum”は、滋賀県の奥深い山中、信楽町にあります。その建物以上に有名なのが、エントランスから美術館に向かう「桜のトンネル」です。日本庭園の踏み石同様、人から見える景色を意識した設計で、春にはピンク色に輝く歩道を抜けると満開の枝垂れ桜が迎えてくれるとのこと。美術作品には関心が持てませんが、建築空間という芸術を味わうため、来年こそは行ってみたいです。(T)