もしもピアノが弾けたなら

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 私の母は音大出のピアニストで、近所や親類の子供達に先生もしていました。小学生当時の私は「ピアノなんて女の子みたい」と感じて全く教えてもらわなかったため、今でも楽譜が読めません。その後、高校生の頃にはハワードジョーンズやa-ha等シンセポップバンドが大流行して「キーボード弾ける奴らはモテる」と気付いた時には後の祭りで、その他あらゆる音楽を一つの楽器で表現できるピアノですが、今更トライする気力はありません。

 「もしもピアノが弾けたなら」はお馴染み西田敏行さんの大ヒット曲、1980年に放映された「池中玄太80キロ」というドラマのテーマ曲です。愛妻が急逝してその連れ子の娘3人を育てる男の苦闘と、「想いの全てを歌にして、君に聴かせることだろう」というメッセージが完璧に相まって、まだ小学生の私も毎回涙を流しながら観ていました。その西田敏行さんが逝去しました。そんな彼に、私からもありがとうの想いをピアノで伝えたいです。

 読書家で教授とも呼ばれた坂本龍一さんは、「言葉に出来る美なら言葉にするから、音楽で表現する必要ない」「音楽に情緒や歌詞があるのは邪魔」と語りました。確かにクラッシックの名曲やジャズ演奏の素晴らしさを言語化すると、大抵陳腐になります。数学的な芸術である音楽は、本来文学や文芸の対極にあります。それでもオペラや演歌、ポップス等、歌詞を乗せたメロディが世界中で愛されるのは、その組合せが感情を直接揺さぶるからです。

 決してスタイルは良くなかった西田敏行さんは我々三枚目チームの憧れであり、歌は勿論、ドラマやバラエティの中でも喜怒哀楽をアドリブたっぷりに全身で表現することで、人間を演じてくれました。コンプライアンスやデジタル化の進展で「のっぺらぼう」になっていく今の時代では、暑苦しい存在になっていたかもです。ただ、昭和の残党である私達にとっては、坂本さんが残したメロディより、西田さんの歌唱の方が今も心に響いています。(T)

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