”ショートショートの神様”星新一は数多くの作品を残していますが、
その中に『肩の上の秘書』という一遍があります。
肩の上にインコをのせたセールスマン。
セールスマンが肩のインコに「買え」と呟くと、
インコは実に流暢なセールストークを繰り出します。
一方、セールスを受ける女性の肩の上にもインコが乗っており、
セールストークを要約して、女性の耳に「買え」と囁きます。
女性が「イヤ」とインコに答えると、インコは丁寧なお断りの挨拶を返し、
それを受けたセールスマンのインコは「帰れ」と自分の主人に端的な回答を伝えます。
本音を建前で修飾し、建前を本音に要約する。
そんなインコ型翻訳ロボットを誰もが持つ世界を、星新一は描きました。
私が初めてこの物語を読んだのは20年ほど前のことです。
ドラえもんのひみつ道具のように思えたこのインコも、
昨今のAIの発達によって夢物語ではなくなってきました。
メール文面は、アプリが定型文をおすすめするようになってきましたし、
視線や表情からおすすめ商品をマッチングするサービスも実証されるようになりました。
ヒトのコミュニケーションを円滑にするため、
AIが文章、発話、表情を実に詳細に分析する時代になっています。
そして、そのフィードバックを私たちが活用することで、
よりスマートに振る舞える未来もあり得るでしょう。
そして、その先にあるのは…?
AIによってスマートに装飾された「振る舞い」から、
逆に本音を読み解くサービスに展開していくのではないでしょうか。
まさに『肩の上の秘書』の時代。
果たしてそこはストレスのない社会なのでしょうか。
物語の結末が気になる方は
短編集「悪魔のいる天国」に本編が掲載されていますので、ぜひ。