事実は小説よりも難なり

アメリカ合衆国で放送されていたテレビドラマに『NUMBERS 天才数学者の事件ファイル(原題: NUMB3RS)』がある。作中では、FBI特別捜査官ドン・エプスと、彼に協力する弟の天才数学者チャールズ・エプスが様々な難事件を解決していく。本作の見どころは数学者のチャールズが駆使する応用数学である。実際に数学を勉強・研究されている方は作品に対して厳しいご意見はあるかもしれないが、数学の深淵を理解しない私には作中で出てくる「カオス理論」、「11次元超重力理論」、「ベイズ推定」、「モンティ・ホール問題」などなど「なんだかとても難しそうな単語」には心惹かれるものがある。

全6シーズン118話ある中で、特に印象に残っている話がある。シーズン1の第3話『謎のウイルス(原題:Vector)』である。内容は、ロサンゼルスで謎のウイルス感染が発生するという重大事件が発生し、FBI特別捜査官のドンが「政府の数学コンサルタント」として派遣された弟のチャーリーと一緒に事件解決に乗り出した、というものである。

謎のウイルスがドラマや小説の中だけの話ならどれほど良かったか。今、世界で大問題となっている新型コロナウイルスの感染拡大の話である。作中ではチャーリーが作成した計算モデルを使って、ゼロ号患者(疫学調査上で集団内最初の患者となった人物)とウイルスの感染経路を特定出来た。しかし、現実の世界では感染者の特定すらままならず、今後のさらなる感染拡大は避けられない状況にある。優れた数学コンサルタントが作った計算モデルを使えば答えが出るほど現実は簡単ではないようだ。

中国が監視技術で収集したビッグデータを感染経路特定に活用する、という記事を読んだ(『中国、ビッグデータで感染経路特定 新型肺炎、監視技術利用』時事通信, 2020.2.18)。中国がこれまで行ってきた市民のビッグデータ収集は人権活動家や少数民族らを監視するためにも使われ、その乱用に批判が集まっていた。今回、感染経路特定や二次感染の防止に向けて、中国がビッグデータを「活用」するのであれば、その革新的な手法と成果には大いに期待したい。「ピンチはチャンス」であり「必要は発明の母」なのだから。(KS)

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