「生産性革命」は現政権が掲げる国家目標であり、総論では誰もが賛成するコンセプトである。ただし、その意味合いを企業の売上高・営業利益の拡大や、個人の労働時間短縮に限定するなら、それ自体が市場経済の一般原則に過ぎず、精神論の域を出ない。少子高齢化に伴う労働力人口減少を労働生産性の改善でカバーすることは重要だが、技術革新が進んだモノ余りの先進国で財やサービスの量を物理的に増やすことにどこまで本質的な意味があるだろうか。食品ロスや空き屋が溢れる時代に生産性を語るには、量より質の議論が欠かせないのである。
では生産性を高める質の改善とは何か。かつては製造業とサービス業でその意味合いが大きく異なっていた。製造業の場合、多機能化や小型化、耐久性向上などの設計や部素材開発等の積み重ねにより、製品の品質が相対評価されてきた。一方のサービス業では業種特性に応じた顧客満足度の向上が品質の評価指標とされてきた。
今や両者の壁さえも崩れている。消費者の価値観は「所有から利用へ」と確実にシフトしており、情報技術の高度化を背景とした個人取引やシェアリングエコノミーの急速な発展とも相まって、製品の品質はその利用を前提としたコト消費のツールに過ぎない。無論、車や貴金属、絵画等個人の嗜好や所有欲に裏付けられたブランド消費が無くなることはないが、社会的コンセンサスとしてのステータスヴァリューを取り戻すことは期待出来ない。「いつかはクラウン」というキャッチフレーズが幅広い消費者の心に刺さる時代は完全に終わったのである。
更にコト消費を支える個人の欲望は多様化しており、「コスパ」という身も蓋もない表現以外で、消費者が評価する価値を捉えることは困難になりつつある。いかなる業種にとっても、価格以外で訴求可能な評価指標の設定が課題となっている。
リサイクルビジネスの場合、排出者がコンプライアンスだけを前提に目の前の廃棄物を持ち去ることだけを評価する市場では、コスト削減のみが生産性向上の要件になる。幸いなことに、ESG投資やSDGsなどを含む新たな潮流に乗って、排出者の意識にも明らかな変化が生まれつつある。すなわち、生産性を評価する際の分母や分子のあり方が多様化しているのである。
ただし、その実態は曖昧であり、排出者側のコンセンサスを得られる付加価値やブランディング手法は確立されていない。だからこそ、リサイクルビジネスも自らにとっての生産性を定義した上で、適正な競争に注力することが求められるのだ。
新たな指標の設定に際しては、社会的な要請となっている低炭素化や再資源化率向上等のトレンドを踏まえつつ、地域産業としての役割等も果たすことを前提にすべきである。その上で、排出者に刺さるキーワードの分析や要素分解を行い、業者選定時のクライテリアとしての定着を求めるべきであろう。
本連載では、これからのリサイクルビジネスに求められる評価指標=価値に係る検証を行いつつ、その先にある生産性革命の方向性を探る。