炭素繊維リサイクルとの付き合い方 投資リスクを避けてメーカーの開発力を活用

メディア掲載

炭素繊維リサイクルへの取組が本格化しつつある。正確には、今後利用拡大が見込まれる炭素繊維強化プラスチック(以下、「CFRP」という。)利用製品から、炭素繊維を回収するシステムの構築がその目的となる。炭素繊維は「軽くて、強くて、硬くて、錆びない」性質を持ち、自動車から土木建築に至る幅広い産業での利用拡大が確実視されている。経済産業省の予測では2020年まで年率20%で市場が広がり、その市場規模は4,500億円に及ぶ見込みだ。うち、我が国化学メーカーの世界シェアは6割を占めると言われており、国家レベルの成長産業に位置付けられている。

だからこそのリサイクルである。エネルギー消費量やCO2排出量削減に資する「軽量化」の切り札として、自動車鋼板への代替さえも期待されており、仮に実現すればベースメタルを含む素材市場の大転換を促すポテンシャルを秘める。本稿では、炭素繊維リサイクルの可能性とリスク、リサイクルビジネスの立場から見た付き合い方についての検証を行う。

すでに炭素繊維リサイクルへの参入を表明している企業は、主に化学メーカーあるいはその系列企業である。CFRPの既存大規模ユーザーは航空機メーカーだが、製造工程で発生する端材等がリサイクル技術開発の実験サンプルとして活用されており、その所有者は供給元の化学メーカーに限られるからである。ただし、発生量が世界で数千トン規模の現状で、化学メーカーが破砕・切断、熱処理等の技術や商用レベル設備を導入することはない。当面は、化学メーカーの系列のリサイクルチェーンにどのように自らのポジションを位置付けるかがリサイクルビジネスにとっての入り口であり、最も賢明なアプローチと言える。

そもそも、炭素繊維リサイクルがこれ程の注目を集める理由は、その製造コストが高額なためである。普通鋼板やハイテンの材料価格が成形品でも百円/kg以下であるのに対して、炭素繊維成形品は五千円~一万数千円/kgであり、将来目標も8百円程度と言われる。すなわち、コスト的に鉄鋼を完全に代替する素材にはなり得ず、車載用圧力容器等特殊部品の材料としてのみ、採用されると見るのが妥当であろう。

次に、リサイクル後の炭素繊維製品を連続長繊維に戻すことは不可能であり、高額なバージン材料への水平リサイクルは、原理的に不可能である。また、紙と同様に繊維長が徐々に短くなるため、リサイクル回数も限られる。したがって、高コストのマテリアルリサイクルで採算性を維持できる可能性は低い。

最後に、端材は例外として、汎用製品への利用が拡大した場合、販売後製品の所有権は移転するため、化学メーカーが独占回収することはできない。仮にリサイクル技術の開発に成功しても、自ら許認可をとって施設整備を行うことは考えにくい。子会社に出資するか、ライセンスフィーを課金するのが関の山であり、その後はリサイクルビジネスの出番が必ず来る。

餅は餅屋であり、焦る必要は全くない。メーカーの開発力を利用しつつもぴったりと寄り添い、二十~三十年後の事業化チャンスを伺えば十分なのである。

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