イノベーションとは、単なる技術革新ではなく、「受益者にとって価値あるサービスや製品に転換する新しいアイディアや発明」を意味する。どんなに優れた技術や製品も、世の中に受け入れられて人々の生活様式や働き方の変革をもたらさなければイノベーションとは呼ばない。
今世紀最大のイノベーションは、スマートフォンの上市かもしれない。ステレオやデジカメ、ゲーム機、PC等の機能を掌サイズのネットワーク端末に集約して利便性を高め、パッケージメディアの終焉を招いた。スマートフォンは、高速通信や半導体、液晶等先端技術の粋を集めた製品だが、要素技術の急速な発展は製品コンセプトを後追いしているに過ぎない。
次に、爆発的に普及しているタクシー配車サービスの「UBER(ウーバー)」や、宿泊施設紹介サービスの「Airbnb(「エアビーアンドビー)」もイノベーションの代表例だが、技術的には何の特徴もない。個人が所有する遊休資産を掘り起こしてユーザーとのマッチングや予約、決済を行うだけのネットサービスである。ただし、その先行者利益とブランド力は国境を越えて、既存規制業種の既得権益を侵食しつつ、個人資産や宿泊の定義を変革するに至っている。
いずれにも共通するのは、どんな製品やサービスを提供するのかというコンセプトを先行させて、要素技術や既存インフラの組み合わせによりビジネスを成立させている点にある。さらに、そのスケールはともかく、イノベーションは先端産業でのみ発現する事象ではない。農林漁業や建設業、廃棄物処理業のように旧態依然とした業界でも、突然変革が迫られる可能性は急速に高まっている。
リサイクルビジネスは、目の前にある不用物の適正処理を請け負うサービス業と、不用物から素材原燃料を抽出する製造業の複合体であり、その本質は変わらない。変わるのは適正処理や原燃料抽出の手法やプロセスであり、これまでの人手と機械の組み合わせは見直す必要が高い。例えば現時点でのイノベーションニーズは、省人化と自動化、抽出する原燃料の品質や歩留まりの向上にあるのではないか。
こうしたニーズを念頭に図示したのが、金属類のリサイクルプロセスを工程分けして、適用が期待される要素技術やその実現がもたらすイノベーションの方向性を示したイメージである。世界中の製造業が「インダストリー4.0」に本気で挑む中、リサイクルビジネスが今のままで良いはずはない。製造業並の生産管理徹底は勿論、先進的な要素技術をリサイクルビジネス特有のプロセスに適用してゆくべきであろう。
潜在的ニーズのないところにイノベーションは生まれない。逆に、要素技術に課題が残されていても、ニーズさえ明確であればいずれは解決される。潜在的ニーズをコンセプトとして描いて業界全体に示すことが出来れば、自ずとイノベーションの方向性も共有することが出来る。将来的な業界の発展に資する投資を促進するためには、今からイノベーションを語り始めることが不可欠との確信を持って、本連載をスタートする。