「地域循環共生圏」が秘めるポテンシャル

メディア掲載

第四次循環型社会形成推進基本計画で環境省が掲げた「地域循環共生圏」は、資源循環に留まることのない社会システム全体の革新を見据えた理念に位置付けられている。そのコンセプトやキーワードを詰め込んだイメージ図は「曼荼羅図」と呼ばれており、サブタイトルには「サイバー空間とフィジカル空間の融合により、地域から人と自然のポテンシャルを引き出す生命系システム」という抽象度の高い表現が盛り込まれている。

欧州ではサーキュラーエコノミーという経済戦略が立案されているが、「循環」は手段であり、それ自体が価値にはなり得ない。一方、「曼荼羅図」には具体的な価値とその実現に向けた手段やツールが混在しており、その詳細デザインや社会実装はこれからの課題となる。今後は、図中のテーマに焦点を絞った検証と実現に向けたシナリオ検討こそが、そのポテンシャルを具現化する上で求められている。

例えば、「多様なビジネスの創出」である。具体例としてエネルギーや観光などにも触れられているが、どのような手段で地域課題を解決するかは取り組み主体の志と価値判断に託される。「災害に強いまち」という総論は誰もが賛成するテーマの場合も、災害発生時の緊急対応、インフラ整備を伴う短期対応、低炭素化等中長期的な根本対応は異なる解決策が必要となる。

また、少子高齢化を背景とした「交通・移動システム」の進化への期待が高まっているが、コンパクトシティ的なまちづくりによる解決策と、IT活用によるシェアリングを前提としたライフモビリティでは、そのアプローチ自体が変わる。その前提となる急速な「ライフスタイル」変革では、一般消費者や地域住民が感じる「豊かさ」という価値観に応じた対応方策が求められるため、全国一律の対応には馴染まない。「観光客」「子育て」「高齢者」への対応とサービス提供は、地域のデモグラフィを十分に勘案した対応が必要な究極の課題でもあり、地方自治体を巻き込んだ対応がその解決のカギを握っている。

更に、「素材イノベーション」への挑戦を含む「ものづくり」の進化には、我が国全体としての国際競争力維持の観点と、地域資源の有効活用等きめ細かな個別対応の両立が求められる。「自律分散型エネルギーシステム」の場合も同様であり、全体最適に資する系統電源の安定維持と地域電源普及を両立するためには、制度的なフレームワークの整備と地元企業の努力を組み合わせる必要があろう。特に地域レベルでの新事業創出等においては、域内での資金環流を促すためにも「地域金融」が積極的な役割を果たすことが重要である。

最後に、国策としての「Society5.0」のインパクトも最大限活用すべきである。「生産性向上」に資する動力は、時代を問わずイノベーションの力なのだ。

本連載は、「地域循環共生圏」の実現に資する個別テーマに焦点を当てた解析を行なうとともに、環境ビジネスの成長と進化に資するヒントを探ることを目的としてスタートさせていただく。(林 孝昌)

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