「ダイバーシティ経営」の実利 職場環境改善・人材確保・ガバナンス強化

メディア掲載

「ダイバーシティ経営」とは、多様な人材を活かしてその能力が最大限発揮できる機会を提供する ことで価値創造につなげる人材活用戦略である。我が国では、取締役会に最低1名女性を配するなど、女性を軸にした達成目標への期待が先行している。ただし、本来そのスコープには、高齢者、障害者、更には外国人なども含まれるべきであり、役員層等への女性登用のみがその目的ではない。

中小企業主体のリサイクルビジネスにおいて、単なるCSR目線の人材活用戦略をとることは現実的でない。したがって、その前提となる実利を把握しつつ、適切な方向性を定めることが重要となる。例えば産廃処理業にとって、食品や化粧品の製造業界における女性目線の製品開発のような発想は無縁であり、全く別目線でそのメリットを見出す必要があるのだ。

まず、幅広い人材確保を職場環境改善のきっかけにすべきである。特に中間処理の現場等では、高齢者や女性には対応困難な過酷作業を含む手作業がいまだに求められている。長期的な労働力不足が見込まれる中、各種先端技術や設備の導入等による現場作業の負荷の低減は不可避であり、若年・中年男性の体力に依存する作業プロセスの撲滅が求められている。いわゆる3K的な作業がなくなれば、就業対象となる人材の間口を広げつつ、職場環境の魅力を飛躍的に高めることができる。

職場環境の改善により、有能な人材の定義自体も変わる。機械化や自動化が進めば、体力的優位性や重機のライセンス保有等は問われなくなり、オペレーターとしての信頼性が求められることになる。例えば、日本語での現場コミュニケーションが不要になれば外国人人材も利用できるし、音声入力技術を活用すれば、手足が不自由でも優秀な障害者の雇用も可能となる。雇用の間口拡大は、人材不足の中でも総合的なオペレーション能力が最も高い人材を確保する手段にもなる。

その上で、新たに求められる取り組みが、ガバナンス強化である。ハラスメント行為の認定ハードルが下がる中、リスク管理のためのガバナンス強化の重要性は急速に高まっている。一般論として、女性や高齢者、障害者、外国人等の割合が高まれば、想定外のコンフリクトが発生する可能性は高まる。そこに対処するための体制整備は、企業としてのレジリエンス強化に資する投資として前向きに捉えるべきである。

具体的に、まずは既存の各種社内規定について、ダイバーシティ経営を前提とした見直しを行うことは急務である。その上で、その実践を担保するためのモニタリングの仕組みを制度化することが求められる。いわゆる大企業ではすでに常識化している「コンプライアンスホットライン」等の設置には、必ずしもシステム投資が必要となる訳ではないため、事業規模の大小はガバナンス強化に取り組まない理由にはなり得ない。

以上のプロセスを経て、持続可能性の高い経営体制を確立するという実利は、コストを確実に上回る。こうした取り組みこそが、企業の「質の改善」、すなわち生産性向上に直結する方策なのである。

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