未来は誰にも分からない。しかし、その不確実性が昨今は特に高まっている。政治、社会、経済、自然等事業リスクの高まりは、これまでの人類の経験と英知の及ばない領域に達しつつある。日本のものづくりは、この「不確実」な時代にあって、適応し進化しなければならない。
日本のものづくりが形作られた背景には江戸時代の鎖国政策があるとの見方がある。外国との貿易を絶った日本が狭い国土で自給していくため、限られた土地に労働力と産業を集約して地域の生産性を上げる必要があったに違いない。
地域に根差し発展してきた日本のものづくり産業は2000年代を境に大きな転機を迎えた。各社が地域から脱却しグローバルサプライチェーン構築を進めてきたのである。その背景には海外企業とのメガコンペティションの顕在化に伴い適地生産を前提とした製品の価格競争力獲得という必要性があった。さらに、生産拠点の分散による事業リスクの分散という狙いもあった。
ただし、果たして本当にグローバルサプライチェーンは事業リスク分散に貢献していたのであろうか。
各社が進めてきたグローバルサプライチェーンの改善は、世界中に分散した工場の機能が厳密に分業される体制を生み出した。サプライチェーンをいたずらに広げたことで、どこか1ヵ所でも綻ぶと代替が効かず、途端にチェーンが切れてしまう極めてリスクの高い状況に陥っていたのではないか。昨今世界を大混乱に陥れている新型ウイルスの影響による、ものづくりサプライチェーンの機能停止はその証明ではないだろうか。
今日の日本のものづくりサプライチェーンには地域回帰が求められている。地域回帰によって企業は様々なリスクを予見して評価できるようになる。また、地域に技能が集積されることで企業経営におけるレジリエンスが確保され、結果的に地域全体の競争力強化を期待することができる。
これからのサプライチェーン構築のカギは地域企業そして地域同士がリアルタイムかつダイナミックに連携することである。これを可能にする試みとして挙げられるのがドイツの推進する「インダストリー4.0」である。
「インダストリー4.0」はドイツ国内のものづくり企業をIoTとネットワークでつなぎ、水平・垂直方向で連携することで、動的な1つの巨大な仮想工場として機能させ、地域・国内製造業の競争力を飛躍的に向上させようという試みである。
ドイツが「インダストリー4.0」を推進する背景には、ドイツの製造業に占める中小企業の比率が高く、それらが地域単位で集約しているという社会特性がある。言うまでもなく、この社会特性は我が国にも通ずるものがあり、「インダストリー4.0」の狙いがうまく嵌っているのである。IoTとネットワークを活用して地域企業からリアルタイムかつシームレスに情報を収集し、収集したビッグデータに基づいて地域全体最適となるように生産計画をフィードバックすることで、さまざまな事業リスクに速やかに対応しつつ生産性を向上させることができる可能性を秘めているである。
日本のものづくり産業の復権は地域循環共生圏構築の駆動力としても不可欠である。「不確実」な時代に適応すべく官民が連携し、日本のものづくりを進化させるべき時に来ている。
坂巻 邦彦