帝国データバンクの調査によれば、2018年時点の後継者不在率は全国で66.4%と試算されている。特に件数ベースで99%、従業員数で70%を占める中小企業は、地域経済・社会を支える雇用の受皿として極めて重要な役割を担っており、その後継者不足はわが国産業構造に深刻な打撃を与えかねない。
マクロ的に見れば経営的には活況なリサイクルビジネスも、地方部の小規模零細企業では事業承継が課題として顕在化しており、経営者の高齢化に伴う後継者難倒産のリスクが高まっている。それでも収集運搬や処分に対応する地域産業としてのニーズは不変であり、大規模廃業や安易な転業は社会問題も引き起こす。
本稿では、リサイクルビジネスの事業特性を踏まえた上で、事業承継という課題への対応に係る検討を行なう。
まず、最も一般的な「親族内承継」である。中間処理施設等を保有している中規模企業では円滑な承継が増えており、女性親族が跡継ぎとなる事例も珍しくない。ただし、中小企業庁によれば5~10年の準備期間が必要と言われており、早めの後継者指名や育成が肝心となる。また、装置産業でもある以上、施設を含む資産や株式譲渡に伴う贈与税対策も必須と言える。いずれにせよ、社会的な受容度からすると、最初の選択肢として突き詰めてみるべきと言える。
次に、「役員・従業員承継」が現実的なオプションとなる。例えば代替わりを契機に上場を果たした事例等もあり、「個人商店から企業へ」の転機にもなり得る得る手法である。廃棄物処理法が定める特殊なコンプライアンスコードを他業種の経営者が十分理解して運用を行なうことは極めて困難であり、いわゆるプロ経営者的な人材よりも、業界の実態等を熟知した役員等の内部昇格の方が手堅い点に間違いはない。その場合、少なくとも創業一族が株主として目配りを行ないつつ、後継者の適性に応じたステージ毎に必要な人事転換を行なうことも可能となる。
最後の手段が、「社外への引継ぎ(M&A等)」である。わが国では事業売却をいまだに「身売り」とみなす文化も残されているが、各地で適正処理や雇用創出等の機能を継続していく上で株主構成自体は問題にならない。例えば、同業へのマジョリティ株式売却を通じて会社自体を存続させることができれば、各種許認可もそのまま継続使用できる。社員数名と車両数台の会社であっても、収集運搬許可とのセットであれば買い手は十分に見つかるはずであり、合併直後からシナジー効果を生み出すことができる。
以上のいずれの手法を採用するにしても、最も重要なステップは適切なデューデリジェンス、すなわち適切な事業評価手続きとなる。会社価値の評価は目に見える施設や不動産のみならず、法務や財務、さらには事業の健全性を第三者的目線から客観的に行なう必要がある。必要に応じて各分野の専門家との連携も図ることも有効であろう。
業界内では、事業規模を問わず世代交代の波が確実に訪れている。個社レベルでの適切な事業継承の行方が、健全な業界全体の構造変革にも寄与することに期待したい。