1990年代以降のIT革命に乗り遅れたリサイクルビジネスでは、一般的にIT人材が不足している。デジタル化による業務効率化も遅れており、マニフェストの電子化率でさえ、直近実績で5割にも満たない。本格的なIoT時代を迎えようとしている今、その運用を担う人材育成並びに確保は喫緊の課題と言える。
一方、IoT時代に求められる人材スペックは、従来とは異なるため、単純に他産業へのキャッチアップを目指す必要はない。では今後求められるIoT人材には、具体的にどのような役割や姿勢が求められるのか。本稿では、リサイクルビジネスに求められるIoT人材のあるべき姿についての検証を行う。
まずは、経営人材である。他業種大企業では、既に「CIO」(chief information officer)と呼ばれる情報担当役員職が設置されている。CIOの役割は、ITを活用したビジネスのデザインやプロデュースにあり、IoT時代にはその際の想定ツールや活用範囲が大幅に拡大する。その極端な事例が、製造業のサービス業化であり、インダストリアルインターネットと呼ばれるIoT技術導入により、収益モデル自体を変革する動きも顕在化している。ただし、リサイクルビジネスはそもそもランニングで稼ぐサービス業であり、むしろIoT導入による効率化や生産性向上に資する導入フレーム設定や、投資を含む意思決定が経営人材の役割となる。
より具体的なIoT利活用方策のアイディアを生み出すのは、事業部門の役割である。既存の事業活動におけるムダやムラの実態や、クライアントニーズに係る情報や経験を持っているのは、例外なく現場であり、効率化や生産性向上の種を見出すことが出来るはずである。事業部門の心掛けとして重要なことは、既存業務フローの改善を念頭に置きつつ、他業種の先行事例等に対するアンテナを高く掲げることにある。更に、これまでの常識に囚われないマインドセットの変革も不可欠となる。その際、専門的・技術的な知識は不要であり、「思い付き」レベルのアイディアを受け入れる社風作りこそが、その前提となるであろう。
IoT導入に係る全社的な方針が定まった後に、その実現方策を具体化するのが情報システム部門の役割である。機密を含む多様な顧客情報を取り扱うリサイクルビジネスにとっては、信頼性の高いシステム運用体制構築が死活的な課題となる。具体的には、IoT導入に伴ってシステム安定稼働やセキュリティ確保の重要性が格段に高まるため、場当たり的でなく一定水準以上の技術力を有する高度人材確保が必須となるのである。
最後に、IoT時代の新たな主役と言われるのが組み込みソフトウェア人材である。身も蓋もなく言えば、製造業の機能を持たないリサイクルビジネスが自ら確保する必要などない。自社事業に最適な機材等製品を導入した上で、現場に使いこなすノウハウさえあれば十分であり、カスタマイズも外注すれば事足りる。
労働力不足と人材不足はその性格が異なる。後者については、経営側の強い意志の有無が成否を分けることになるが、無駄に高いハードルは設けるべきでない。