平成29年2月の時点で、我が国の完全失業率は2.8%にまで低下した。実に22年2か月ぶりの低水準であり、労働需給の逼迫は明らかである。いわゆる景況感を問わず、少子高齢化を背景とした労働力人口不足は長期トレンドとして定着することが見込まれる。雇用不足の世界では、社会的公器として雇用を生み出すことで、就労者や家族の生活を支える賃金を支払うこと自体に企業の存在意義を見出すことが出来た。一方、全国的に就労者不足が顕在化している今、企業が生み出す雇用の在り方が改めて問われることになる。すなわち、雇用の数よりその質が問われるべき時代に突入したのである。
地域密着型・労働集約型産業として発展してきたリサイクルビジネスにも、その業態の全てを見直すべき時が訪れている。特に「低賃金の3K職場」とのネガティブイメージからの脱却は、業としての存続にも関わる課題である。これまでの業界では、例えば選別現場での反復訓練により修得したノウハウや勘を含めた人手に依存するのが常識であった。ただし、高齢化が進んでいる現場で、今後も同じ待遇で就労者を確保し続けることは不可能となる。また、より高い賃金で安定的な雇用確保を図るには、より高い付加価値を生み出すための作業環境整備が欠かせなくなるのである。
人手に頼るビジネスモデルからの脱却は、単純焼却や直接埋立への回帰を意味する訳ではない。1990年代に、家庭ごみ組成の国際比較を目的にデンマークのオーフス市を訪れた際、「廃棄物を人が直接触れることは違法」との指摘を受けて組成調査を拒否された経験がある。確かに街中に整備されたプラスチック製コンテナへの排出される廃棄物を、(袋詰めを含め)収集運搬・処分を担う作業員が手で触る業務フローは当時から存在しなかった。それでも、同国のカルンボー市がゼロエミッションの手本となる環境共生都市として世界的に有名であることにも見られる通り、資源循環の取組は徹底されている。労働安全環境の改善と、再資源化促進の間に相反性はない。
ただし、本稿で描く未来は、規制主導の業界構造転換ではない。第四次産業革命と呼ばれる技術の進化は、IoTやAI、ロボット等、人手による情報管理や属人的な匠の技、更には単純労働からの脱却機会をもたらし、業務フローに革命をもたらすポテンシャルを持つ。まずは業界としてあるべき未来の姿を描き、そこに至る道筋を具体化することが、国内産業の健全な発展と国民生活の保全を支える「社会インフラ」としてのリサイクルビジネスに不可欠と言える。また、「環境ビジネス」のブランドを背景に製造業と同等以上の職場を作り、先端技術を操る人材のプロフェッショナル集団への転換を図るべき時が来ている。
本連載では、廃棄物処理・リサイクルビジネスの業務フロー等を念頭に、IoT等先端技術が生み出し得る付加価値と、その実現による業界発展の手段や道筋等についての検討を行う。