資源矮小国の我が国では、廃棄物やスクラップから有用金属を回収・再生・利用する都市鉱山開発に対する期待が大きい。
一方、昨今は各種レアメタル価格が低迷しており、リサイクルビジネスにとっても事業化のメリットが見出せない状況に陥っている。資源相場の変動は世の常であり、短期的な経済性の有無で都市鉱山開発の有効性を疑うのはナンセンスである。だからこそ、求められるのは国家や業界としての意志であり、今こそその意志が試されている。
その将来ビジョンを描くのは今後の課題であり、今後のシナリオと目標とする社会システム像を明確化した上で、関係者ごとの役割分担とその実現に向けたアクションを示す必要がある。本稿では、「情報化」「標準化」「共有化」をキーワードに、都市鉱山開発に向けたシナリオの一例を示す。
まず、貴金属やレアメタル等の再資源化実態に係る情報が不足している。マクロ的に見た対象金属含有製品の再資源化フローや含有量、歩留まり等に係る情報が把握できていない。最低でも個社単位での「情報化」により、対象鉱物のフローの見える化を実現することが最初の課題となる。自社が取り扱う廃棄物や使用済み製品の情報システム管理を実現して、品目横断的に含有金属情報の統合管理を行う必要がある。そのデータを基に、採掘ポテンシャルの高い対象金属を絞り込んで技術開発を行い、回収・再資源化システムを構築するのだ。
次に、リサイクルチェーンを構成する主体による情報管理手法の「標準化」が求められる。ただし、都市鉱山開発に制度的な責務はなく、情報管理には手間とコストがかかることへの配慮が不可欠である。標準化の前提として、対象鉱物に係る管理対象項目等は絞り込み、最小限必要な情報の範囲を特定すべきである。さらに化学物質分野等における先行事例を参考にすることで、「ガイドライン」や「情報伝達様式」等を整備する。標準化を裏付ける手法としては、主要企業による採用を起点にしたJIS化が現実的であろう。
最後に、最もハードルが高いのが、情報化・標準化した情報の「共有化」である。原料・部材の組成や使用済み製品の仕入れ先等に係る情報は全て企業機密にも直結するからである。まずは実証ベースで、行政機関や業界団体等信頼性の高い機関が、アクセス制限等の機能を設けつつも都市鉱山情報を共有化するための情報プラットフォームを構築する。その際、企業にとって、機密開示リスクが生じない現実的な情報提供ルールも設定する。さらに当該プラットフォームを活用して、第三者機関がその管理・運営を担う体制を整備するのである。
本シナリオ実現のカギを握るのは、情報プラットフォームを担う信頼性と公平性を確保した第三者機関の確保である。有用資源のマクロフロー、需給、取引相場等を管理するインフラを担うべきは誰か。それは筆者にもわからない。
都市鉱山開発による資源循環高度化は、国家としての目標である。幅広い企業や行政、研究者による検討や連携を通じて、第三者機関確保を含むシナリオのコンセンサス形成を急ぐべきであろう。