メタン発酵は、廃棄物処理とエネルギー対策を両立する時代が求める処理技術である。各種リサイクル法の施行により、「残された課題は生ごみ」との認識が自治体関係者にも広がっている。うち、食品廃棄物は異物混入等のリスクが高く、肥料化や飼料化にはリスクが伴う。焼却を避けてエネルギー回収にも資するメタン発酵は、施設立地自治体にとっても合理的な選択肢となり得る。
もう一つの顔が、再生可能エネルギーとしての優位性である。天候に左右される太陽光や風力とは異なり、メタン発酵で供給される熱や電力には安定性が認められる。いわゆる負荷追従運転が可能な熱源・電源として、地熱や木質バイオマス等と並び大きな期待が寄せられている。
それでも遅々として普及が進まない理由を端的に言えば、臭気を始めとする住民対策とコスト面の課題解決が困難であるからである。
生ごみや畜産糞尿、下水汚泥等のバイオマス処理施設は、地域住民にとって臭気発生に対する警戒感が強い。最新施設では焼却炉以上に徹底した臭気対策が施されるが、低水準の堆肥化施設等が問題を起こした先行事例も多い。住民の強い抵抗感を肌で感じる自治体関係者は、その政策的有効性の如何を問わず、施設整備に消極的となる。
コスト面での最大の課題は、メタン発酵後に発生する消化液の処理にある。技術的に確立している湿式メタン発酵プロセスでは、有機性廃棄物の投入量を上回る水を利用する。発酵後の消化液は農地等での液肥利用も可能だが、その用途が見込めない場合、大規模浄水設備を併設して処理後に下水放流を行う必要が生じる。結果、投資コストは拡大して、回収年数が積み上がってしまう。
こうした課題を乗り越えて、メタン発酵の事業化を実現するには、地域活性化に資するシナリオの整備が必要となる。
まず、メタン発酵施設における「廃棄物削減・資源有効利用促進」は、焼却ごみ削減を目指す全ての自治体に訴求するメリットである。ただし、焼却ごみ削減は、処理コスト削減の観点で見た重要課題であり、市民はその恩恵を実感しにくい。したがって、「+α」のメリットを感じさせるシナリオが求められることになる。
具体的には、施設内利用やFIT売電を前提とした「省エネ・低炭素化」、地域の発電会社設立や公共施設へのエネルギー供給等を前提とした「地域振興・災害時対策」、メタン発酵エネルギーの農業利用や液肥の活用等による「バイオマス利活用・農業振興」などがその候補となる。こうしたメリットを組み合わせた上で、住民感情やコスト等課題解決にも資するシナリオのゴールに設定することが具体策となってくる。
「地方創生」という現政権のキーワードに象徴される通り、地域が地域の課題を自ら解決していく仕組みの構築は、我が国全体の底上げにおける大命題となっている。メタン発酵の事業化は、リサイクルビジネスがその実現に資する試金石の一つにも位置付けられているのである。