米グーグルの研究部門が開発した人工知能(以下、「AI」という。)である「アルファ碁」にプロ棋士が負けたニュースがあったが、加減乗除の演算力で電卓にさえ勝てない自らを思えば当たり前のことである。目標とルールがデジタルに明確化された勝負では、ゲームにせよスポーツにせよ、人間が機械に勝てないことは自明である。
三度目とも言われるAIブームだが、今回の目玉は「深層学習」と言われる。ロジックの積み上げに依存する機械学習とは異なり、膨大な画像データや音声データ等を要素分解・解析して機械自ら法則性を見出すことが可能となっている。人間は誰でも家族の顔を確実に識別するが、その理由を正確に言語化・数値化して他人に説明することは不可能だ。それが機械には可能であり、人間が組み立てたロジックの事前インプット無しに、目標に到達出来る可能性が高まったのである。本稿では、廃棄物処理・リサイクル分野におけるAI活用の意義とその適用範囲についての検証を行う。
AI導入により最も期待されるのは、属人的な「匠の技からの脱却」である。他産業との比較でも、マニュアル化や電子化の度合いが低いリサイクルビジネスでは、現場の円滑な運営や生産性向上が特定個人のスキルや勘に依存している。しかも当該担当者でさえ自らの判断基準を言語化してマニュアル化出来ないため、技能伝承が困難となり、効率的なソリューション導入の足枷になっている。AI導入は、この現状を打破するきっかけとなり得る。
例えば、収集運搬車両の配車設定である。排出事業者と締結する委託契約では収集予定日まで定めておらず、スポットの収集依頼等にも対応しなければならない。配車担当者は経験と過去の実績を踏まえて予測を立てた上で、自前車両の行先に係る差配を行う。こうした予測は正にAIの得意分野であり、多数の排出事業者全ての配車依頼データを解析して正確な予測が出来るようになれば、担当者の経験に頼る度合いを低減しつつ、最適なルート回収を含むより効率的な配車が可能になる。
また、プラント運転管理も同様である。焼却炉の工場長は、施設メンテナンスや定期修繕のタイミングをモーターの稼働音等を踏まえた経験則と勘で判断する。仮に適切な箇所にセンサーを設置した上でモニタリングを行い、蓄積したデータを踏まえて客観的判断が行えるシステムを導入出来れば、焼却炉の稼働率を高めることにもつながる。
更に破砕処理等前後の選別作業も導入対象になり得る。例えば廃プラスチックの選別等では光学選別装置導入が広がっているが、機械選別の実績をデータベース化した上でAIによる解析を行えば、選別を重ねる毎に分別精度が高まるシステムの開発も期待出来る。同様に、金属を対象とした破砕選別装置が対象となればシステム導入の付加価値は更に高まる。
業界全体の高度化を見据えてAIを導入すべき目標と適用範囲は、幅広く検討する価値がある。更にロボット技術との組み合わせまで進むことを考えれば、その検討プロセスこそが、人間に求められる役割となる時代が来るのかもしれない。