「地域金融」に求められる役割は、融資などの財務支援だけでなく、地域企業の社会的価値を高めることにある。経済的・社会的な価値が高い企業が大きく成長すれば、日本全体に活力をもたらし、地方創生にもつながる。
ただし、残念ながら地域金融は、バブル崩壊後も新規事業への融資を積極的に行うためのノウハウを蓄積できていない。結果、融資対象は、財務状況や担保・保証の有無で定量的に決められ、融資先の事業内容や将来的な成長性に基づく事業性評価融資が行われていない。
また、地域金融を含む全ての企業の成長に必要不可欠な資源は、「人材」だが、特に地方では、昨今の雇用を巡る社会情勢が極めて厳しい。最大の要因は、日本の人口減少と大都市への一極集中化にある。人口減少は、国内全体の労働力不足に直結する上、東京などの大都市への一極集中化は、特に地方から労働力を奪う。労働力不足が経済を疲弊させ、少子化と人口減少を加速させるのである。この負のスパイラルから脱却するためにも地元の金融機関は、「金融事業=融資」という単純なモデルから脱却する必要がある。
本稿では、地方銀行や信用金庫等の地域金融が、地域社会に根ざした企業や人材を支援する形を考えたい。その具体的な手法として、金融機関がハブとなる「産学連携ビジネス」や「地方創生ファンド」等の手法の活用可能性を検証する。
地域で雇用を創り、住民の定住を促すには、ベンチャー企業の立上げや地方の大学や研究機関への支援、高齢化社会を見据えたヘルスケア関連事業の支援、被災地の災害復興支援など、山積みとなっているなどの課題解決が必須となる。「産学連携ビジネス」は、金融機関が今までに培った地域経済や企業とのネットワークを活用することを前提としたマッチング事業である。地方の大学や研究機関でも、医療、素材、宇宙開発など、先進的な研究開発は行われているが、独自の情報や人脈を有する金融機関が、当該技術を求める企業とのマッチングを図ることで、地域社会発のイノベーション促進のためのハブ機能を果たすのだ。
また、「地方創生ファンド」とは、金融機関が企業へ直接出資するのではなく、ベンチャー企業育成等に長けた投資会社が、出資と企業審査や育成支援なども同時に行う仕組みを指す。
企業側の目線で見ると、前例や実績が不十分な社会課題解決型事業の場合、事業の将来性や技術的な優位性に関わらず、一般的な融資を受けることが難しい。「地域創生ファンド」の活用により、投資会社の「目利き力」を通じて、こうした企業も中長期的な資金援助の機会を得られる可能性が高まる。地域金融は、投資会社から多角的で精度や確実性の高い情報を得ることが可能となり、融資段階でのリスクを低減することができる。更に、当該企業が成長した後は、地域経済の担い手として、負のスパイラルを逆回転させるエンジンとなることも期待できる。
世界的な金余りで資金需要が枯渇している中、関係者と力を合わせて地域に活力を与えることで、地域全体の価値を高めることが、地域金融にとって唯一最大の使命であろう。新たな金融商品の開発・導入は、地域金融が自らのアイデンティティを見直すためのきっかけにもなり得るのである。
横水 元気