ウェアラブル端末とは、身につけて使う情報機器の総称である。タブレットやスマートフォン等はそのカテゴリーに入らず、眼鏡や時計、洋服等の形状を模した情報機器類が徐々に商用化されつつある。ただし、アップルウオッチやグーグルグラス等既存製品が普及しているとは言い難く、目途も立っていない。その根本的な理由として、プライベートではスマートフォン等が消費者ニーズを満たしていることが挙げられ、BtoC分野の普及は今後も期待しにくい。
一方で業務用途、すなわちBtoB分野での利活用への期待は高まりつつある。プライベートと異なり、ある程度強制的にウェアラブルを着用させることで、新たな付加価値を生み出す可能性が見出せるためである。
本稿では、リサイクルビジネスの現場でウェアラブル端末が生み出し得る付加価値と、その実用性に係る検証を行う。
まず、期待度が最も高まっているのは、中間処理施設等における労働安全管理への適用である。一般論として、中間処理施設は「3K職場」を脱却し切れておらず、労働災害発生率も高い。管理者側が作業員の体調や作業内容を徹底把握するためにセンサーを身に着けさせることは、モニタリング管理において極めて有効である。施設内での移動状況や、心拍数等の体調管理を就業時間中に把握出来れば、労災リスクを低減することが可能となる。
次に、作業者の「匠の技」を形式知化するための手段としても、ウェアラブル端末を活用することが考えられる。現場の特殊スキルを有する人材が枯渇しつつある中、技能継承が重要な課題となっている。例えば、既存の熟練作業員にアイトラッカーを装着して作業を行ってもらえば、暗黙知に留まっているノウハウを形式知化することで、システマチックな技能継承を可能にすることが期待できる。
最後に、遠隔からの作業指示への応用も考えられる。例えばヘッドマウントディスプレイのような機材を日常生活で常時装着することは現実的ではないが、就業時間中であれば可能である。特に現場経験の浅い新規就労者等に対して、形式化したノウハウに基づく作業指示をリアルタイムで提供することが出来れば、熟練作業員への依存度を低減できる。
以上に示した「作業員モニタリング管理」「暗黙知の形式知化」「リアルタイムの作業指示」という一連の流れは、IoTがもたらすイノベーションの典型的な流れと捉えられる。すなわち、工場勤務の技能者集団が果たす役割を、IoT等の力を活用することで、素人集団が置き換える方向に導くプロセスとして位置付けられる。ウェアラブル端末は、その実現に有効なツールなのである
現場作業員の目線で見れば失職リスクが生まれる可能性もあるが、その実現は現実的にまだまだ先である。それまでの間に、より高い付加価値を生む働き方への転換を見出すことによってのみ、「3K職場」からの脱却と革新が可能となるのだ。