1.政策目標と現場ニーズのギャップ
産業政策という言葉は死語になりつつある。「行政機関に今後の成長産業を見極められるはずがない」というのがその根拠だ。最新の成長戦略でも、ビジネスのハードルを下げることや特区での規制緩和を図ることなど、企業の競争環境を整えることに力点を置いた政策が目立つ。一方、現実の国や自治体の役割には国民生活を守るための規制措置やインフラ整備だけでなく、企業活動を誘導するための施策も含まれる。マクロ的な視点から、「どんな社会を目指すのか」というビジョンを示すのが行政の役割である以上、特定の産業に一定の肩入れすることを躊躇する必要はない。
廃棄物・リサイクル業界に目を向けると、資源循環型社会構築という大命題が掲げられる中、一見すると期待が大きく、政策的優先度も高く、優遇されているかに見える。従来は公共サービス又は規制業種と認識されてきたが、昨今では民間活力導入やインフラ輸出等の観点から産業としての側面にも光が当たりつつある。産業である以上、成長を目指すのは必然であり、廃棄物処理・リサイクルに取り組む民間企業(以下、「リサイクラー」という。)も自社の売上と利益の拡大を目指す。
国が定めた公式な達成目標は、循環型社会形成推進基本計画に則った「資源生産性」「循環利用率」「最終処分量」というマクロ的な定量目標であり、そのプロセスにおける経済性等は問われていない。逆に成長を目指すリサイクラーにとっては、そのプロセスこそが重要であり、産業の命運を左右する。行政からの期待とリサイクラー側のニーズには明らかなギャップがあり、その穴埋めが出来てこそ、政策目標の達成が期待出来る。本稿では、リサイクラー目線で見た政策ツールの現状に関する検証を行い、その有効な改善策の事例を提示する。
2.補助金
最もわかり易い政策ツールは、補助金である。リサイクラーの設備投資に伴う投資回収期間を圧縮して、事業の収益率を高める効果があるため、支援策としての即効性は高い。ただし、収益事業として一般的に成立する分野で特定企業に補助金を交付すれば、健全な競争を歪めてしまう。結果、開発段階の技術や設備等先進性の高い事業や、採算確保が困難な事業等が補助対象になる。このロジックをリサイクラー側から見れば、儲からない事業にしか補助金が交付されないのと同意であり、結果事業が破綻すれば、税金は無駄になる。CSR的な取り組みをPRするためならば、補助金効果が無くなり次第撤収となる。言うまでもなく、民間企業にとって「儲けるな」とのメッセージは、ナンセンスである。
これからの補助金のあり方として、例えば当該事業がもたらす「再資源化率向上」や「低炭素化」等に定量基準を設定して、その実現可否のみを交付要件に設定してはどうか。その場合、交付後のビジネスモデルを含む経済性は問わず、定量基準の未達成事業には交付しないなど、成果報酬的な色合いも求められる。単年度予算等技術的な課題を超えて、直接的効果が望める事業への補助を強化すべきと考える。
3.拡大生産者責任
拡大生産者責任とは、本来「製品に対する生産者の物理的および(もしくは)経済的責任が製品ライフサイクルの使用後の段階にまで拡大される環境政策上の手法」だが、我が国ではメーカー等が再商品化の費用を直接負担する用語として定着した。各種リサイクル法もそのスキームで設計されてきたが、品目別再資源化システムは出尽くした感がある。メーカーに直接費用を負担させて、価格転嫁を促せば環境負荷が抑制され、税金も安くなるというロジックは幻想に過ぎない。
より直接的に、リサイクラーによる「資源循環の高度化」を促すカギは、メーカーの情報開示範囲の拡大にあるのではないか。リサイクラー側が製品の設計や部材の組成、ターゲットとする有価素材の含有状況等を事前に把握出来れば、より効率的な再資源化システム整備が可能となる。集荷ターゲットの設定、自社が保有するラインの整備や効果的な技術開発のためにも、公的関与の下で一定の強制性を伴う情報開示が行われることは極めて有効となる。
無論、メーカーにとって製品情報は生命線であり、開示は極めてデリケートな課題である。ただし、リサイクラーが求めるのは、素材やその加工手法に係る情報のみである。しかも製品のライフサイクルによって上市後5年~10年後の情報であればリスクは低い。政策がメーカーに求めるべきは、金銭負担よりも情報開示であり、その先にこそ、動脈産業と静脈産業の本格的な連携実現が期待できる。
4.官民連携(PPP)
一般廃棄物処理分野における官民連携は、これから本格化する。自治体財政は逼迫しており、全国的に自前の廃棄物処理施設を確保し続けることには限界がある。コスト削減のみならず、「再資源化率向上」や「低炭素化」を図る上でも、民間施設で広域的な廃棄物処理・リサイクルシステム導入が合理的なことは、データを以て検証するまでもない。これまで、その広がりは限定的であり、更なる普及が期待される。
廃棄物処理・リサイクル分野に費やされる最大規模の補助金は、循環型社会形成推進交付金だが、同交付金の交付対象は公共施設に限られる。PFI法第2条第2項に規定する特定事業への交付は可能だが、現実に増加しているのは、より手続きが簡便でVFMが大きいと言われるDBO方式での民間参入である。一歩踏み込んで、今後更に官民連携を促進するための施策として、民間施設への交付を視野に入れた検討を進めてみてはどうか。その場合、国の役割は補助金交付基準の調整にあり、自治体側のミッションは、確実で安定した処理を行える事業者の選定・委託にある。「官から民へ」、民間施設への交付金適用は、廃棄物処理への民間活力導入に向けて、既存財源を活用した有効な手段となり得る。
5.規制緩和
「廃棄物処理法」の改正は、古くて新しいテーマである。曰く、「一般廃棄物と産業廃棄物の垣根を取り除くべき」「産廃の指定業種や品目を見直すべき」などの要望が、法見直し議論の度に繰り返し示されている。それでも、制度の根幹は1970 年以来不変であり、そこにこの法律の普遍性がある。一言で言えば、良く出来ているのである。第一条の目的は明確であり、そのコンテクストで列挙された個別条項にも見事な必然性が認められる。筆者個人の意見として、同法の大枠を変える必要性などない。リサイクラーが不満を示す諸規制も、行政にとっては過去から現在に至る不正行為の予防措置として不可欠と言える。
ただし、現状を肯定する訳ではない。問題は法制度よりも、その運用にある。許認可権者の自治体が認めれば、リサイクラーが一般廃棄物処理を担うことは可能であり、産業廃棄物との混合処理も可能である。廃棄物該当性の判断でさえ、自治体裁量に委ねられる。広域認定制度や再資源化認定制度の特例もあり、各種リサイクル法も、廃棄物処理法の例外を認めている。それでもリサイクラーが不自由を感じる理由は、運用段階における国や自治体の「こわばり」にある。例外措置を認める上ではリスクが存在し、行政側のエネルギーも必要となる。だからこそ、現行法の枠組みで許される特例措置は、活かすも殺すも、国や自治体の運用に尽きるのである。
6.社会実験
例えば家電リサイクル法において、高品位な室外機を含むエアコンが逆有償で処理されている現状は、どう算盤を弾いても合理的とは言えない。また、業務用は有価取引が当たり前のPCについて、前払いが前提とは言え、家庭系は逆有償で引き取られることも意味不明である。こうした状態が続く原因は、社会システム全体の保全を前提とした法制度にあり、地域単位での経済合理性を無視した一律の基準が適用されるためである。「特区」という社会実験は、こうした現状をただす上で極めて有効な政策ツールである。すなわち、再商品化能力が十分で、発生源や二次処理先とも隣接する地域では、安価で大量の循環資源を自力で調達出来るはずであり、制度の枠を超えて有価取引を認めれば良いのである。
そもそもリサイクル施設は迷惑施設扱いされており、その立地には住民の理解が不可欠である。だからこそ、リサイクル施設が集積した地域を「リサイクル特区」に指定して、域内処理を前提に高品位製品の合法的な販売を認める等、目に見えるメリットを与えてみてはどうか。
自治体が有価資源と認めた物品の取引であれば、住民理解も得やすい上、制度的に広域集荷も可能となる。こうした事例が広まれば、原料製造業の側面を持つリサイクルビジネスへの理解も進み、二次原料の取引も活性化する。結果業界全体のイメージアップが期待出来るはずである。
7.成長産業となるために求められる条件
リサイクルビジネスを成長産業に、との機運は高まりつつある。社会インフラとして不可欠な産業の中では未成熟であり、地方活性化に資する内需型産業であるからであろう。また、国際的に見ても、1990年代以降の我が国リサイクル政策は、ガラパゴス化との批判は受けつつも、確実に成果をあげてきた。中間処理にコストが必要との認識を、国民が受け入れること自体が民度の高さと政策の先進性を示しており、今後我が国リサイクラーが世界のマーケットをリードしていく可能性は十分にある。
欧州ではお得意の理念先行型規制として、RE(Resource Efficiency)等の議論が進められているが、VWの排ガス不正問題でドイツの製造業さえ信頼を失墜する中、二次原料優先の資源産業構築や拡大生産者責任強化等のお題目を誰が信用出来るのか。我が国は、我が国の道を行けば良いのだ。
産業振興を支える政策の実現は、マクロ的な関係各位の強い意志の集積が導く結果である。「水素社会」のような派手さはなくとも、リサイクルビジネスを核とした「資源循環型社会」の構築は、立派な成長戦略になり得る。そう信じて、あらゆる政策ツールを有効活用することが、業界全体の未来を拓く近道となる。